2.【ファミレスの注文は程々に】

 

 

 

17:30 一文字ヶ丘公園通りにて

 

 

 

「どいたどいたー!!!危ないから下がって!!」

 

 そう走りながら叫ぶのは

白いシャツに赤いネクタイ、腰にはカーデガンを巻きスカートをなびかせ、

赤い目、赤色の髪をポニーテールにした女子高生だった。

 

 ポニーテールの女子高生はアスファルトの地面を猛スピードで走る。

その颯爽と走る女子高生を見る周りの目はどれも

まるで鳩が豆鉄砲を食らったような表情をしている。

 

「私から逃げられると…おぉ…もぉ…うぅ…なぁぁぁ…よぉぉおおおおお!!!」

 

 そう叫ぶと女子高生の足は更に早くなる。

女子高生が追うのは目の前を制限速度も無視して走る暴走原付バイク。

原付バイクの男の手には女性物のカバンが握られている。

女子高生は目の前で女性のカバンがひったくりに遭うのを目撃し、それを追いかけている最中だった。

誰もが走って追いつけるはずが無いと考えるだろう、しかしその赤髪の女子高生は走って追いかける。

 

「馬ァ鹿かよ!!原付きに走って追いつけるわけがねぇだ…ハァアアアアァア!?」

 

 原付バイクの運転手は制限速度も無視して走っていた、にもかかわらず、

あろうことか追ってきた赤髪の女子高生は気がつけば原付バイクと“並走していた”。

 

「にひっ…法定速度守れよ、危ねぇだろうがこのクソ野郎がぁ!!!!!」

 

 そう言うと赤髪の女子高生は原付きを思いきり真横から蹴り飛ばす。

蹴り飛ばされた原付きバイクはコンクリートを滑るように回転し、

火花と轟音を辺りに撒き散らしながら電信柱に激突し大破した。

 

 原付きを運転していたひったくり犯は宙を舞い、道路を転がり、体を血だらけにしながら

意識を失い、道端に倒れる。

 

 女子高生はその惨状を眺める、その表情は引きつり、青ざめながら「やりすぎた・・・」と

一言呟くのだった。

 

 

 

19:20 ファミリーレストラン店内

 

 

 

「んで…ひったくられたカバンを持ち主に返したあと、猛ダッシュでその場を逃げ去ったと…唯

…お前それ流石にまずいだろ…」

 

 ファミレスの店内の窓際の席で3人の学生が座っていた。

テーブルの上には大量のフライドポテトが置いてあった。

“唯”と呼ばれた赤髪の女子高生は表情を曇らせながらも、

大量のフライドポテトを食べる事を止めず、どんどんフライドポテトの量を減らしていく。

それを呆れながら眺める二人の学生。

 

 一人は金髪でメガネをかけ緑色の目、ジャージ姿の少し背の高い学生。

先程の唯の話を聞いて溜息を吐きつつ、隣でファミレスにも関わらずコンビニで買ってきたコーヒー牛乳を

飲もうとする黒髪の少年に

 

「遊…せめてファミレスなんだからドリンクバーのジュース飲みなさい」とツッコむ。

 

 もう一人の“遊”と呼ばれた黒髪の少年は気怠そうな表情で

「俺は今とてもコーヒー牛乳が飲みたい気分なのでー…」

と言い放ち、コーヒー牛乳を開けてストローで飲み始める。

 

 “遊”と呼ばれた黒髪の少年の見た目はとても気怠そうで服装はだらしなく、

よれよれになった赤いTシャツ、袖がだるだるのパーカーを着ている。

 目は赤色で左頬には痛々しいまるで“裂けた口を縫い付けているような縫い跡”があった。

 

「だって!大惨事だよ!!大事故!!あぁ…あの運転手死んでたらどうしよう…

って思ったら怖くなって逃げちゃって…どうしよう雪平ぁ~!!」

 

「いや、それひき逃げ犯がよく言うやつだから」

 

 雪平と呼ばれた金髪メガネの少年はかかさずツッコむ。

溜息をはきながら横にどんどん溜まっていく注文の伝票の紙を眺めてまた溜息を吐く。

 

「そんな溜息吐くなよ、幸運が逃げるよ?」

 

「誰のせいだよっ!!なんだよこの伝票の枚数!!店員さんも困惑してるよ!!食いすぎだてめぇ!!!」

 

「経費でよろしく」

 

「お前意味わかってそれ言ってんだろうなぁ…?」

 

 雪平は自分の財布の中身を確認しながら、唯が頼んだ料理の数々の値段を確認する。

通常じゃ考えられないほどの大食いの唯の食費を賄っているのは雪平だった。

 

「…てかひったくり犯でも走ってるバイクを蹴っ飛ばしたら捕まるのか…?

むしろ感謝状とかもらえたんじゃねーの?」

 

「んー…でも逃げちゃったしー?暴行罪とかじゃね?まぁどうせ監視カメラにバッチリ映ってるんだし…

さっさと自首しにいく?なんなら俺たちがついてってあげようかー?」

 

「この薄情者!!雪平ぁ!!遊が虐める!!なんとかして!!!」

 

 遊はストローを噛みながらニタァと笑い、唯の不安を煽る。

遊のこの時の顔は人の不幸を眺めて楽しんでいる時の顔だ、すごく見慣れた顔だ。

 

「これが最後の晩餐だな…刑務所に入る前にたんまりポテト喰ってお…ゲブォ!!?」

 

 唯は雪平の喉に地獄突きをすると「最後がポテトは嫌だ!!」と言い追加注文をしようと店員呼び出しボタンを押す。

雪平は俺の扱い雑じゃね…?と思いながら唯の注文と遊のちゃっかりいちごパフェを追加注文するのを黙って聞いていた。

 

 

 

20:30 ファミリーレストラン前

 

 

 

「いやー!くったくった!」

 

 唯は先程の暗い顔はどこへやらという程満腹で満足な笑顔になっていた。

それと対を成すように雪平の顔は予想を軽く超えるあまりにも多額な出費に青ざめていた。

 

「俺はいちごパフェが食えたので満足です」

 

「ははは…ほんと人の金だと容赦なく喰うよなお前ら…」

 

 そんな話をしている最中に外でたむろしていた不良達がこちらをじっと眺めている事に気がつく。

その表情はみなこちらを睨んでいるようだった。

 

「何だあいつら…知り合いか?」

 

「あんな知り合いいるわけないでしょ」

 

 すると不良の一人が立ち上がりこちらに向かってくる。

 

「よぉ…嬢ちゃん今暇かぁ?」

 

「やっぱりお前の知り合いじゃん」

 

「いやだから知らないってば!…なんですか…別に暇じゃないんですけど」

 

「なんだよなんだよー…そんな冷たい態度ひでぇじゃねーか…少しばかし俺らと遊ばねーか?

俺たち嬢ちゃんに用事があるんだよ、ちっと付き合えよ」

 

 そう言うと後ろで座っていた不良達もぞろぞろとこちらへ向かってくる。

気がつけば至るところから不良が出てきて、いつの間にか不良の集団に囲まれていた。

 

「俺たちが用事あるのはそこの赤髪の女だけだから、そこの男二人は帰って良いぞ

おとなしく居なくなればこっちはなーんも手はださねぇからよっ!へっへっへ…」

 

 遊と雪平は不良のリーダー格の男にそう言われると顔を見合わせ

 

「それじゃあ遠慮なく帰らせてもらうか」

「そうだなーじゃあ唯また今度なー」

 

 と唯を置いて行こうとする二人の首根っこを唯が掴む。

 

「ちょっとちょっと、今にも襲われそうなか弱い女の子置いて逃げる男って最低でしょ?ねぇねぇねぇ?」

 

「いや、だってあいつら俺たちに用事無いって言うし別に俺ら関係ないもん」

「か弱い女の子も居ないしな」

 

「こーこ!!!ここに居るよ!!!!目の前に!!!!」

 

 そのやり取りを見ていた頭の悪そうな不良の一人がイラつきを隠せずにリーダー格の男に話しかける。

 

「もういいでしょ“鮫居さん”こいつら男二人ボコって女だけ拉致って回しましょうよぉ!俺もう我慢できねぇや!!」

 

「落ち着け馬鹿野郎、そんな焦らなくてもほしけりゃくれてやるよ、俺ぁただ今日の借りをかえしてーだけ

だからよ…なぁ…よくも俺のダチ蹴っ飛ばしてくれたなぁ…女ァ…」

 

 3人は今日話してた内容を思い出し、この不良達が今日唯が蹴っ飛ばしたひったくり犯の仲間だと気がつく。

唯は気になって今日蹴っ飛ばしたひったくり犯がどうなったのか聞く。

 

「あぁ?ニュースみてねぇのかよ?今さっき刑務所にブチ込まれたよ、アイツは貴重な収入源だったのによぉ

どうしてくれんだよ?なぁ?」

 

頭の悪そうな不良がそう言うと

 

「なーんだ!!生きてたんだ!!私殺人犯じゃなかった!!よかったぁ!!」

 

 と唯は周りに居る不良達に目もくれず喜びはねていた。

それを見る不良達の機嫌がどんどん悪くなっていく、誰が見てもひと目でわかるほどに険悪な雰囲気になっていく。

すると不良の一人が

 

「おめぇらナメてんだろォ!!おいゴラァ!!今テメェらの状況理解できてんのかァ!?アァ!?」

 

 と叫ぶ、それを合図に他の不良も各々に持ってた武器をチラつかせながら威嚇してくる。

しかし、それを見ても三人は顔色変えずに飄々とした態度を変えることは無い。

 

「どうしよう遊、このままじゃ私犯されそうなんだけど」

 

「知らねぇよ…もう帰って寝たいんだよめんどくさい…邪魔くせぇなぁ…」

 

 遊がめんどくさそうに不良達を睨みつける、それを見た頭の悪そうな不良が持っていた木刀を振り上げ、

 

「てめぇが邪魔なんだよ!!死ねオラァ!!!」

 

 不良は木刀を思い切り振り下ろした、遊の頭をめがけて、振り下ろした“はずだった”。

 

「あえ?」

 

確かに木刀は遊の頭にめがけて振り下ろされた、しかし遊は傷一つついていない、

不良が木刀を見ると、木刀の半分が“無くなっていた”まるで切り取られたかのように。

木刀を振り下ろした本人は何が起きたのか全く理解できていなかったが、周りを見ると、皆

“なにか”を見て動揺していたようだった。

 

「おい」

 

 頭の悪そうな不良が目の前の遊を見ると、そこには“黒い靄のような物”が遊の体にまとわりついていた。

その黒い靄のような物は腕の形をしていて、その黒い靄の腕は切り取られた木刀を掴んでいた。

 

「っひぇ!?」

 

 遊はニタァと笑うと黒い靄のような物を不良の首にまとわりつかせ、不良を中に浮かせた。

 

「っがぁ…ぐる…じ…お゛ぇ゛…」

 

「なぁっ!!?なんだよこれぇ!!?」

 

「ば…化物ォ!!?」

 

 目の前の信じられない光景を見た不良達はたじろいだ、今目の当たりにしているのは何だ?

夢でも見ているのか?あれは何だ?幽霊?どうすればいい?怖い、ヤバイ。

不良達全員が今目の当たりしている光景を見て恐怖した。

それはあまりにも禍々しく、まるで死神のような物が人の首を吊っているように見えた。

誰もあの黒い靄をあやつる遊に近づく事ができなかった。

 

「なぁ…もう帰っても良いか?じゃないとコイツ死んじゃうけど」

 

 不良達は遊の狂気に満ちたような笑顔を見て今にも逃げ出そうとしていた。

しかしリーダー格の男、先程“鮫居”とよばれていた男だけは違っていた。

 

「そ…そいつを離しやがれぇえええ!!!」

 

 鮫居は手に持っていたナイフで遊の首を狙って振りかざす、

しかしその隣にいた雪平が手に持っていたナイフを蹴り飛ばす。

ナイフは手から離れ、宙を舞地面にカランと落ちる。

鮫居がとっさに雪平に目を向けると、先程ナイフを蹴り飛ばした足をそのまま鮫居の下顎へと思い切り振り下ろす。

蹴りを下顎に受けた鮫居は白目になりながら意識を失い、膝から崩れ落ちた。

 

「さ、鮫居さぁあああん!!!!!」

 

「やべぇよ!!!逃げろ!!!!!!!」

 

 不良達は我先にと、遊に掴まれた頭の悪そうな不良一人と意識を失った鮫居を置いて逃げ出して行く。

遊は溜息をつくと黒い靄で掴んでいた頭の悪そうな不良を開放した。

不良はどさりと音をたてて落とされると、むせて咳き込む。

 

「おいお前」

 

「ひぃいぃいいい!!!やめっ!やめてくれ!!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃぃ!!!」

 

「こいつ連れてもう二度とくんな、もしまた視界に入ったら次は殺す」

 

 遊は鮫居を指差すと頭の悪そうな不良を睨みつけた。

目に涙を浮かべる頭の悪そうな不良は首を何度もタテに降ると鮫居を担いで走って逃げてゆくのだった。

 

「遊かっこいいー!!!ありがとう!!!助かったよーーー!!」

 

「…唯…お前首絞めていい?」

 

「なんでっ!?」

 

 遊は唯をにらみつけるとなんでじゃねーだろと言いながら唯の首をしめる。

ぐぇぇと唯は言いながら唯がもがいていると雪平が遊と唯二人の頭にめがけてチョップをくりだす。

 

「っだ!?」

「いぢっ!?」

 

 雪平の顔は既に疲弊しきっているようで、今日溜息をつくのは何度めだろうな?と雪平は考える。

 

「お前ら…何度も言ってるが、一般人に“能力”を使うなと何度も言っているよなぁ?なぁ?」

 

 雪平は額に血管を浮かばせながらメガネを光らせている。

それを見て遊と唯は怯える…めったに怒らない雪平は怒らせるととても怖い。

二人はそれを嫌と言うほど知っていた…。

 

「特に唯!!!!」

 

「はひぃ!!!!」

 

「お前今日何人に人間超えの超スピードダッシュを見せたんだ、言ってみろ!!!」

 

「わかりましぇん!!!!!!」

 

「原付きバイクに走って追いつく奴が何処にいる!!!!」

 

「すびばせん!!!!!!」

 

「そして遊!!!!!!」

 

「お…おぅ…」

 

「一般人にあんなもの使ったら危ないっていつもいつもいってるだ・ろ・う・が!!!!!」

 

「わ…悪かったって…つい…」

 

「つい?」

 

「…ごめんなさい…」

 

 いつもは雪平を馬鹿にしたり財布扱いしているが、実は二人とも雪平には逆らえない。

怒るといつもオカンのようになってとてもめんどくさい。

二人が雪平に怒られてしゅんとしたのを見た雪平は今日一番の大きい溜息を吐くと

穏やかな声で二人に話しかける。

 

「あのなぁ…その“能力”を使って偏見の眼で見られるのはお前らなんだぞ?」

 

「はい…」

「…」

 

「いつも言ってる一般人に“能力”を使うのはダメだってのは、一般人が危ないからとかそんな事よりも

お前らが偏見の眼で見られて、生活に支障がでるのが俺は嫌なんだ。いつも周りに怯えられて、誰からも距離を置かれて

裏で陰口だぁ“感染者”は危ないから近寄るなだとか言われるのはお前たちなんだぞ…?」

 

 雪平は誰よりも遊と唯の身を案じていた。

普通の人間とは違う“人の道を踏み外してしまった”二人を誰よりも心配している。

 

「…またオカンみたいなことを…」

「ご…ごめんってば雪平…もうあんま能力使わないからさぁ…」

 

「その力を使う時は本当に危なくなった時だけだ!!」

 

「いや今日俺木刀で殴られかけたんだけど」

「私なんか遊と雪平においてかれそうになったんだけど」

 

「そ…それは」

 

「能力使うなって言うなら真っ先に雪平が助けるべきだよなぁ?」

「そうだそうだー!!」

 

「それは…悪かったけど」

 

「あーあ…雪平は無能だから…」

「雪平つかえねーなー!!」

 

「…お前らもう二度と奢らねーからな」

 

「やだぁぁぁぁ…」

「ごめんなさいいいい!!!!」

 

「纏わりつくな!!鬱陶しい!!!あぁもう!!!」

 

 

 

 少し人とはかけ離れた、“人の道を踏み外した存在”になってしまった三人。

遊、唯、雪平。

彼ら三人はまだ知らない。

 

 

 

 “すべてが無意味だった事になる結末を―――”